空き家問題の解決にも光明?「相続登記義務化」で何が変わるか #空き家

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地方都市を中心に、所有者不明の土地が増えている。
背景には、相続時に登記手続きをしなくても、そこに暮らし続ける限り不便が生じにくいという特有の事情があったという。
しかし、そのまま代替わりを繰り返すと、所有者不明となりかねず、また売却にも大変な不便が生じるため法改正が行われた。

父亡きあと「祖父名義の土地」の存在が判明
不動産に関する悩みを抱えるAさんが法律相談所に相談に見えた際の会話より。
先月、Aさんの80歳の父親が急病で亡くなり、AさんとAさんの兄の2人で、父の遺産について話合いをしているとのこと。

「父は15年前に母を亡くして以降、ずっとひとり暮らしでしたが、認知症もなく、財産管理もすべて自分で行っていました。
そのため、私や兄は父の財産についてよく知りませんでした。
ですが、今回詳しく調べてみたところ、30年前に亡くなった祖父名義の土地が残っているのがわかったんです。
いったいどうしたらいいんでしょう。
それも含め、今回の遺産分割協議で話し合わなければならないのでしょうか。
このまま土地の登記を祖父の名義のままにしておいたらどうなりますか?」
じつは最近、このようなご相談が増えているという。
その理由のひとつに、登記法改正の影響が考えらるという。

以前は「登記移転をせず放置」でも平気だったが…
そもそもAさんのように、ご先祖の登記をそのままにしているご家族は少なくない。
その背景には、相続とそれ以外の場合(売買など)とで、登記移転の必要性に差があることがあげられる。
土地の売買は他人とのあいだで行われることが多く、その場合はほぼ確実に登記の移転が行われる。
なぜなら、登記を移さないと、せっかくお金を払って他人から土地を買ったのに、土地の名義が自分に移ったことを買主が証明できないからだという。
しかし、土地を相続する場合は事情が異なる。
相続は親族間で起こるが、よほど仲の悪い親族でない限り、土地の名義人の子孫がそのまま住み続けたところで、だれも文句をいわないためである。
そのため、費用をかけてまで登記を移さなくても大きな問題にならないという。
このように、すぐに登記を移転しなくても不利益が生じにくいということが、登記を移さないケースが頻出する原因だと考えられる。

人口流出と高齢化で「土地登記の問題」が顕在化

しかし、都市部への人口移動や高齢化の進展などにより、地方を中心に土地の所有意識が希薄化し、土地を利用したいというニーズも低下。
それにより、それまで土地を所有してきた人が、土地を手放したい(売却したい)と考えるようになったという。
上述したように、売買の際には買主へ登記を移転するのが通常なので、その前提として売買の時点で売主に登記がないといけない。

ところが、これまで名義変更について意識してこなかった場合、いざ売ろうとしたときに、売主に登記がなく、売主の先代又はそれよりさらに前の先祖が登記を有しているということが判明して困惑する、という事態が多発しているという。
そして、このような状態から売主に登記を移すのは、通常の相続登記よりもかなりの手間がかかってしまう。
登記を移すには、その時点での登記名義人の全相続人が参加したうえで「遺産分割協議」を行わなければならないが、先代ならまだしも、数代前の登記のままになっているとなると、もはや相続人が何十人にもなっていることが珍しくなく、全員と連絡を取ったり、全員を相手取って裁判手続をしたりするのは、労力的にも金銭的にも、相当な負担がかかってしまう。
そのため、断念してしまう方も少なくなかった。

また、近年ではしばしば「空き家問題」が取りざたされているが、行政が地域住民から「荒れ果てた空き家をどうにかしてほしい」と連絡を受けた際、いざ登記を確認してみると、かなり昔の時代の登記のまま放置されてていることが非常に多いという。
相続人の生存すら不明で、まずは行政が戸籍を調査・相続人の生死を確認するところからやる必要があった。
苦労して調査を重ね、所有者の死亡が判明しても、その相続人と連絡がつかず、結局、手を尽くしたところで対策がとれず、空き家のまま…という事例もかなり増えてきていた。

この状況が問題視され、令和3年4月、不動産登記に関連するいくつかの法律が改正されたという。

相続登記が義務に…登記法改正の概要

今回の改正について、代表的なものを取り上げてみたいと思う。

(1)相続登記の義務化
まず、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることを義務付けた。
いままで登記の移転義務がなかったところを、新たに義務とした。
また、正当な理由がなく期間内の申請が漏れた場合には、過料の罰則がある。
これにより、いままで「必要性がないから」といって登記をしなかった方々も、義務となったうえに過料まであるならば、きちんと登記するようになる。

(2)死亡した旨の表示
次に、法務局の登記官が、住基ネット等から登記名義人の死亡の有無を確認し、登記官の職権で(相続人の申請がなくても)、死亡した事実を登記上に表示できるように。
これにより、登記を見れば、その名義人が亡くなっているのかどうかがわかるように。

(3)法定相続分による登記
さらに、相続開始(亡くなった時点)から10年が経過した場合には、遺産分割協議がまだ行われていない場合でも、法定相続分で登記ができる制度が新設。
これにより、遺産分割協議が行われなかったとしても、10年が経過すればひとまず下の世代への登記が可能に。
逆にいうと、10年たつと画一的に法定相続分で登記がされてしまうことになるわけで、不動産を取得したい相続人については、積極的にほかの相続人に対して遺産分割協議を持ち掛ける動機が生じることで、不動産が放置されにくくなるというのが狙い。

適用は3年以内…不安のある人は、確認と対応を急いで

具体的な改正内容によって例外はあるが、この新しいルールが適用されるのは原則として今後約2年以内、相続登記の申請義務化に関する点は約3年以内と定められている。
あまり時間がないため、放置によってどのような問題が生じるのか、行う場合はどのような手続きが必要となるのか、しっかりと理解しておく必要がある。

冒頭でご紹介したAさんは、祖父の相続人だった叔母(Aさんの父の妹)と、AさんとAさんの兄の3人で話し合い、土地を売却して法定相続分に従って分配することになったという。
しかし実際には、Aさんのようにスムーズに協議ができることはまれであり、相続人同士の紛争に発展して相談に訪れる方のほうが多い。

今回取り上げた法改正の内容はあくまで概要、改正の中心的な内容となっている。
土地の登記について不安がある方は、まず上記の改正内容を理解したうえ、その他の改正の内容もご自分で確認してみてほしい。

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